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レポートの書き方

「レポートの書き方」

論述ワーキンググループのメンバーが、分担を決めてプレゼンしながら議論して、「レポートの書き方」に関する教材を開発しています。ここに表示されている内容は、まだ未完成であり、また個人的意見も含まれています。その点、ご了承ください。また、無断での複製使用はご遠慮ください。

はじめに

 日吉キャンパスで、文系学生向けに開講されている実験科目では「実験レポート」を提出することを求めています。
ここでは、そのレポートの意義と取り組み方について説明していきます。
日吉キャンパスで実験科目を開講する理由
 
 慶應義塾を開かれた福澤諭吉先生は『物理学之要用』の中で「初学を導くに専ら物理学を以ってして、
恰も諸課の予備となす」とお書きになって、科学的思考が、全ての学問の基礎になるとのお考えを
示されています。ここで重視されている科学的思考とは、客観的に現状分析を行い、論理的な仮説と
検証方法を立案し、実験(調査を含む)によってデータを収集し、既知の情報と照会して考察する、またそれを
第三者にわかりやすく説明すると言う過程を含んでいます。
皆さんが“大学以降で行う学問・研究”は、文系・理系であるかを問わず、このようなプロセスの積み重ねに
なっていきます。そして、これらのプロセスは社会人として企画書や報告書を作成する基礎技術となっていくのです。
しかし、大変残念なことですが、“高校までの勉強”は習う項目が多すぎて、“大学以降で行う学問・研究”の
方法論まで手が回らない場合が多いようです。
日吉で行う学生実験は、高校までの勉強から大人の学問・研究へと発想の転換をするための練習であると
理解してください。

第1章 基本的に大事なこと

1-1. レポート作成に取り組む姿勢

 皆さんが既にお気づきの通り、学生実験にはそれを通じて理解すべき知識が明らかに含まれて
います。察しの良い皆さんは得得と、実験目的に「この実験は○○を理解するためのものである」
と書きますが、それでは教員と生徒の 間に閉ざされた“勉強”のための対話にすぎず、“大学で
行う学問・研究”の方法を習得するとは言えません。まず、実験クラスに参加していない家族や
友人を念頭に置いて、レポートを読んだだけで十分に意義が通じる内容であることを心がけましょう。
レポートの作成方法は教員によって、題材によって多少異なりますが、およそ以下のように分類
されるでしょう。

1. 学生の仮想的な立場が指定されている場合(ロールプレイング形式)            
 この形式は企画書・報告書作成の過程を、自然科学実験によって体験するこ とができるように、
主として入門向けに企画されたものです。教員側から演じるべき役割、説明すべき相手、説明すべき
内容が指定されます。たとえば、ヒトの染色体異常を擬似的に検査する実験では産婦人科医として
妊婦に出生前診断の方法とその結果を説明するように指示が出されます。事前に相手に伝えなければ
ならないことは何か、結果についてはどういう説明が適切か、イメージをふくらませて取り組んで
ください。

2. 過去のある時点の科学者であるとイメージする場合   
  多くの学生実験はこの型に当てはまるでしょう。学生実験クラスを運営するには準備の都合があり
ますから、全く自由に実験をするわけにはいきませんし、 短時間で結果につなげるために既知の
実験方法を用い、既知の結果を再現する形式になっています。多くの皆さんが陥りやすいのは、
「学生として“結果の分かっている実験”をやらされました」形式のレポートを作ってしまうという
ことです。教員から明示的に演じるべき役割が振られなかった場合でも、“その結果が分かって
いなかった時代の科学者”を演じているのだ、そして“広く世間にその研究結果を知らせたい
立場である”とイメージして取り組むと良いレポートになるでしょう。

3. 課題探求型実験の場合        
  教員にも結果が予測できない課題に取り組む、いわば本格的な研究に近い方式です。この型の実験
は行うごとに結果が違ったり、採るべき方法論が多様で有ったりするために科学的思考力を養うには
良い方法なのですが、運営が難しいので、あまり多く行われてはいません。このような実験では特別な
立場をイメージする必要はありませんが、科学的思考力の全てが求められる手強い課題と言えます。
適切な課題設定になるように教員とよく相談して取り組んでください。やりたいことを独自に行うのが
優れているわけではなく、適切な指示を仰ぎ、周囲と協力して仕事を進めるのも能力の内です。

1-2. 科学レポートに限らず,課題を提出するときに注意すべき点

1-2-1. 剽窃は不正行為です

  ・過去レポを写さない
  ・書物の文章,資料などの出典を明らかにせずに転用しない
 
 書籍やWebから無断借用したものを公にすれば,「著作権法違反」という明らかな犯罪行為となります.大学で提出するレポートも処分の対象になりますから,慎重に取り組んで下さい.
   特に,以下の点に注意しましょう.
 
1)過去レポ
 レポートを書く際に,過去レポ(学生は先輩の書いたレポートをこう呼びます)を写すことは悪いことであるとわかっている方は多いでしょう.
 もちろん,全部ではなくて,一部だけであってもいけません.
2)出典を明らかにする
 多くの場合,レポート書く際には,本や論文など,他人が書いた文章や資料を参考にします.この場合,出典を明らかにする必要があります.
 Webを参考にするときも同様です.それは,書いた人の成果であって,皆さんがやったことでも,考えたことでもありません.きちんと誰の成果であるかを示し(参考文献という形で書きます),敬意を表する必要があります.
3)引用
 文献を参考にするのではなく,そっくりそのまま引き出すときには引用となり,引用であることを示しておく必要があります.引用であることを示さなければ,剽窃とみなされます.
 なお,部分引用(文の一部だけ,あるいは,つながりを無視して,一部の文だけなど)するときには,その引用は正確であっても,切り取ったことにより,元の意図と異なった意味になることもあります.きちんと,参考文献を咀嚼してから,レポートをまとめる必要があります.
4)その他の重要な注意
 難しいのは,文献を参考にして,自分の言葉で表現するときです.その程度により,剽窃とみなされますから,注意しましょう.
 その分野の常識であれば,わざわざ,文献を示す必要はありません.しかし,皆さんは初学者ですから,初めて学ぶことが多く,この区別が難しいと思います.時間があれば,数冊,その分野の本を読んでみて,どの本にも書いてある内容であれば,それはその分野の常識ということになるでしょう.だんだんに慣れてきますから,安心して下さい.
 言うまでもないことですが,過去レポを参考文献にあげるということはあり得ません.
 また,引用ばかりであってもいけません.自分の言葉で表現する練習をしていきましょう.
 最後に,自分の書いたレポートが他人に剽窃されることのないよう,特に電子媒体の管理には注意しましょう.

1-2-2. Web情報の取り扱い

  ・過去レポを写さない
  ・書物の文章,資料などの出典を明らかにせずに転用しない
 
 Webは非常に便利なものですが,書籍にくらべ,信頼性の低いものが多いです.誰が書いたかわからないものは信頼できないと思って下さい.皆さんが調べたときとレポート提出時では,URLが変更されていたり,内容が変更されたりしていることもあります.また,サイト自体が閉鎖してしまうこともあります.学術的な電子ジャーナルや信頼のできる機関が運営しているサイトを選んで,利用しましょう.

 

1-3. 特に科学レポートを書くときに注意すべき点
   (他のレポートでも共通するところもあります)

1-3-1. 事実を正確に書く

  ・データの改竄をしない
  ・ネガティヴに見える結果にも意味がある

 

1)データの取り扱い
 授業中に行う実験は,時間的な制約や新しいことを学ぶことが主体になってしまうこともあり,既知の実験方法を用いて,既知の結論を導くことも多くなってしまいます.そのような実験の場合,正しい(と思われる)理論が導けるようなデータでないと不安になってしまうかもしれません.
 例えば,比例関係を示すプロットが得られれば都合がいいのに,ずれてしまって,そのデータがなければいいのに思うこともあるかもしれません.
 しかし,得られたデータはありのまま使用しなければなりません.データを改竄たり,都合のいいデータだけを抽出したりしてはいけません.社会でも,このようなデータ改竄や捏造による事件で処分されている例が多くあります.
 皆さんが社会に出てからも,このようなことをしないように,今のうちから事実を正確に書く習慣を身につけて下さい.
 また,過去の著名な研究の中には,失敗だと思っていたことが大発見に繋がったものが多くあります.この意味でも,自分の実験結果を受け入れることは非常に大きな意味があります.
 もちろん,どう考えても失敗ということもあるでしょう.実験を成功させることも大切なことですが,それだけが目標ではありません.ありのままの実験結果を考察し,失敗の原因を究明することも大事なステップです.
 当たり前のことですが,きれいなデータが良い成績と結びつくわけではありません.論理的に考察をすることが重要なのです.
2)操作法の記述における注意点
 操作法を記述する際には,誤解が生じないように注意しましょう.レポートでは簡潔に記述することが求められますが,操作の一部を省略したり,重要な条件を書かなかったりすると,実際に行った実験とは違う操作になってしまうこともあります.書いた本人は実験をしているので,そこにない記述も頭の中で勝手に作ってしまいがちです.文章を読んだだけで,その操作が再現できるかどうかを冷静に考えてみましょう.

1-3-2. 報告書の表現法 

  ・“である調”で記述する
  ・過去形と現在形を使いわける
  ・明確・簡潔な表現をする
 
1)文体など
 文体は,レポートに限らず,統一するべきです.報告書の類は,普通,“である調”で書きます.特に,科学系であれば,“である調”で統一しましょう.その方が,インパクトがありますし,自信を持って自分の考えを主張していることが伝わります.
 わかりやすく,まとめるために箇条書きをすることはありますが,箇条書きばかりではいけません.基本的に文章で表現します.そういった意味で,体言止めは文章ではありませんから,本文中では用いません.
2)実験操作は“過去形”で
 テキストでは,これからやることなので,その手順を現在形で書いてありますが,報告書における実験操作は,自分が実際に行ったことを書きます.従って,もう既に行ったことですので,過去形で書きましょう.もちろん,テキストの手順を過去形に変更するだけではいけません.例えば,試薬Aを1g 秤るのであれば,“試薬Aを1.027g 秤りとった”のように具体的な実際の数値を示しましょう.
3)わかりやすく,伝える
 文章は明確に,簡潔な表現で書きましょう.読み手に伝わることが大切です.余計な言葉で飾らないようにしましょう.
4)一人称はあまり用いない.
 一人称はあまり用いません.一人称を使ってもよい場合もありますが,慣れていないと,どういうときに使用して良いのかはわかりにくいでしょう.科学レポートは,実験事実や現象をもとに客観的に考察するものなので,なるべく一人称を使わないようにした方が良いでしょう.「私は」は口語的な響きを感じますし,使い方を誤ると,日記や感想文のようになって
しまいますので気をつけましょう.

1-3-3. 実験ノート

  ・予習をする
  ・記録をとる
  ・筆記具は油性ボールペン
 
  良いレポートを書くためには,良い実験ノートを作成することが不可欠です.

 

1)予習
 実験には,危険を伴うものもあります.危険回避のためにも予習は不可欠です.また,しっかりとしたテキストがあれば,実験を手順通りに行うことは可能ですが,実験の意味もわからずに作業しているだけでは意味がありません.きちんと予習をして,実験を理解しましょう.
2)記録
 実験中は,観察したことや実験結果をその場で正確に記載しましょう.記憶に頼ってはいけません.数値・色など具体的な記載をしましょう.
 筆記具は油性ボールペンを使うとよいでしょう.水性ボールペンでは,ノートが水に濡れると,見えなくなってしまうこともあります.また,記載した記録に間違いがあったときは,修正液を用いずに二重線で消して,その近くに書き直しましょう.データとして正しい可能性もあります.
 実験ノートは,他人が見てもわかるように丁寧に書きましょう.
 また,実験の記録なのか調べたことなのかをきちんと区別して記載しましょう.

1-4. 番外編

1.提出期限は守りましょう

2.レポート用紙の余白は適度に空けましょう

3.ページ番号を入れましょう

4.正しい日本語を使いましょう

  書き上げたら.一度,読み返し,誤字・脱字がないか,正しい表現かをチェックしましょう.
 

5.レポートの綴じ方

  レポートは複数枚からなるので,綴じますが(科学レポートは横書きなので),指定がなければ,左上1箇所,あるいは上2箇所を綴じます.
 
 
6.書き間違えたときは.修正液を使いましょう
 
  実験ノートを書くときには修正液を用いずに二重線で消しますが,提出物であるレポートでは修正液を用います.
 
 

 

第2章 数字やデータの取り扱い

2-1. 単位や数値の表示

・単位を示す   
  数値には単位も必ず示す。単位は式の途中やグラフにも書くこと。

・単位は掛算も割り算もできる
   例:面積3 m × 4 m = 12 m2
   例:速度(1秒間当りに進む距離) 100 m/ 10 s =10 m/s

・指数は数値の桁数を表す
   指数を使うと非常に大きなものから小さなものまで書ける。
   指数がマイナスの場合は、小数点以下のゼロの個数に1を加えた数となる。
    例:スカイツリー 634 m = 6.34×102 m
    例:アメーバー0.03〜0.5 mm = 3×10-2 〜5×10-1 mm = 3×10-5 〜5×10-4 m  

・指数に関する計算の規則
   10a ×10b = 10a+b
   10a ÷10b = 10a-b
   (10a)b = 10ab

2-2. 有効数字

・測定の精度
   測定に使用する器具の目盛以上に、細かい数値は読みとれない。
   その読み取り数値の桁数が有効数字である。
   物差しの目盛りが荒いと、有効数字の桁数が下がる。
   測定データをもとに計算する場合、その有効数字も考える必要がある。
    例:3回測定して、平均値を求める場合に、10/3 = 3.33333… 
         数学としては正しいが、科学としてはまずい。

・数値の表示
   有効数字がわかりやすいように、c ×10n(1≦c<10、nは整数)の形で書く。
    例:590 g と書くと有効数字がどこまでかわからない。
         5.90×102gと書くと有効数字が3桁であることがわかる。

2-3. グラフ

・書き方の基本
縦軸・横軸に量および単位を忘れずに書く。
グラフに数値をプロットして、それらをできるだけ通るような直線を引く場合、なるべく点が偏らないようにする。
また、その直線が原点を通るべきかどうかにも気をつける。

第3章 実験操作や観察の記録

 この章では実験の操作(方法、手順、手法など呼称はさまざまです)や観察記録、結果の書き方について実験中の記録法とレポートでの書式にわけて解説します。

 実験中の記録(実験ノート)は基本的に非公式ですので、自分のスタイルで記入しても問題ありません。これに対して実験後の報告書(レポート)は、公式な文書になることも想定して、決められた書式にそって作成する必要があります。また、分野を問わず多くの人が読む可能性もありますので、専門外の人にも理解できるような書き方を心がけることが大切です。

実験ノートは必要でしょうか?
 本来、実験をおこなうときに実験ノートは必携です(1-3-3.   実験ノートの項も参照)。研究の水準が上がるにつれて、実験前の準備(予習)や実験後の報告(論文発表)のために、より多くの周辺情報や実験データを整理し、一括して保管する必要性が出てくるからです。かといって…
ルーズリーフは実験ノートとしてふさわしくありません。
 手軽で便利ではありますが「順序がでたらめになりやすい・紛失しやすい」という欠点があります。
このことは、差し替えや破棄が容易であること、すなわち「改ざんが容易」であることを意味します。一時的なメモとしての使用も好ましくありません。リング式のノートも同じようなことがいえますので糸綴じ、あるいは背糊止めの冊子をおすすめします。とはいえ…
入門段階では、実験マニュアルの余白や空きページで代用してもよいでしょう。
 実験授業の性質上、専用の実験ノートを用意するまでもないときには、許可される場合があります。ただし余白には限界がありますので、行間のすきまに詰め込んで書くことは避けましょう。印刷された文字に紛れて見落としたり、小さな字は読めなくなったりするおそれがあるからです。また、投げ縄のように線を引いて記録する方法も、数が増えるにつれてお互いが絡まり、混乱のもとになりますから、濫用するべきではありません。
穴埋め式の当日レポートに結果を記入すればよい場合でも、記録をとる習慣をつけましょう。
 実験ノートは無用の長物に思えるかもしれませんが、そうではありません。当日レポートは限られた実験時間内に作成することが多いため、実験中の観察記録すべてを記入するようにはなっていません。そのほかの結果は、記録を残しておかなければ失われてしまいますので、報告の必要性にかかわらず、実験をおこなった当人の「財産」として書きとめておきましょう。
 実験中に観察した内容や測定したデータがどのような意味をもっているのか、あるいは、いつ必要になるのか、すぐに判断がつかないこともしばしばあります。当日レポートに記入すべき内容は最終的な結果だけであっても、その結果を導くためには順をおってデータを集める必要があるとすれば、実験が終了してからそのことに気がついても、もはや手遅れです。

 社会に出れば、テンプレートが常に用意されているわけではありません。与えられたガイドラインに頼らず報告書を作成できるようになることが目標と考えましょう。その材料を自発的に収集・管理するための土台が、実験ノートなのです。

3-1. 実験中における「操作や観察記録」の書き方

『忘れるために 記録する』

実験中に書きとめておきたいことは、思った以上にたくさんあるものです。
   ・注意事項 …… 実験当日に口頭で与えられるものも
   ・観察記録 …… 実験すればつぎつぎに出てくる
   ・測定データ … 場合によっては膨大な数にのぼる
   ・計算結果 …… 途中計算などデータ処理の過程も残す
   ・考察の題材 … いいアイディアはメモしておく
   ・そのほか …… 気がついたことを何でも書き込む

これらをすべて記憶にとどめておくのは、まず無理なのではないでしょうか。

記録はこまめに取りましょう。
 つい「覚えているだろう」「まとめて書こう」と考えがちですが、忘れたらそれっきりです。記憶にたよらず、そのつど書きとめる習慣をつけましょう。また「あとで人のノートを写そう」という考えは(それ自体が問題でもありますが)非常に危険です。その人も記録をとっていない、あるいは締切りのまぎわになっても連絡がつかないなど、思い通りにはならないものです。
 人間は忘れやすい生き物です。「忘れるため」の備忘録として実験ノートを活用しましょう。
実験ノートは丁寧に書きましょう。
 体裁を気にしすぎる必要はありませんが、書いた本人以外に解読できないのでは困ります。ましてや本人にも判読できない字で記入することはやめましょう。字が上手いか下手かの問題ではありません。乱雑にならないよう配慮するだけでも違います。仕事をまとめおわらないうちに他人へ引き継ぐこともありますので、そのときに恥ずかしい思いをしないよう気をつけたいものです。
 余談ですが、企業や研究所では個人の実験ノートや作業記録でも公文書として保管することが常識になっています。知的所有権の関係で証拠物件として提出を求められた場合、世界中の人々に公開される可能性もあるということです。大学の研究室レベルでも徐々に変わりつつあるようですが、ずっと先のこととは考えずに、今のうちから心に留めておくとよいかもしれません。
訂正部分は二重線で抹消しましょう。
 塗りつぶしたり完全に消したりせず、訂正箇所には二重線を引いて、余白に書き直すのが通例です。訂正する前の記録も判読できるようにするためです。これは、先に書いた内容のほうが正しい場合や、経時変化によるもの(訂正前・訂正後ともに意味がある結果)、あるいは訂正する箇所自体を間違える可能性、などが考えられるからです。
 部分的に訂正すると紛らわしくなる場合もあります。たとえば、数値を訂正しようとするときには、間違った何文字かの数字を書き換えるより、数値全体に二重線を引き、あらためて正しい値を記入したほうがよいでしょう。
3-1-1.「操作」の記録(実験中)
『おこなったことを そのまま』

実験マニュアル通りの操作は、基本的に記録不要です。
 まったく同じ操作をおこなったのであれば、その操作をすぐに参照できない場合を除いて、わざわざ記録する必要はありません。ただ、実験内容を簡潔に書き添えておけば、どの操作がどの観察記録に対応しているか照合しやすくなりますので、結果の整理にも役立ちます。

どこにも記載がないものは、記録を残しておきましょう。
 マニュアルにすべての事項が漏れなく記載されているとは限りません。試料や器具の名称、装置の環境、実験条件などが明記されていない、または別紙に提示されている、ということもあります。その場合には実験中に自分で調べ、必要事項を補いながら詳細に記録をとっておく必要があります。
 また急に操作の変更を告げられたり、事情で操作を追加したりすると、マニュアルの記載と一致しないことになります。あるいは、実験が終了してから操作が違っていたことに気がつく場合もあります。そのときは、マニュアル通りでなかった操作を忘れずに実験ノートに控えておきましょう。さもないと、結果が矛盾していると指摘されるおそれがあります。
 もちろん、マニュアルが用意されていない場合は操作も自分で記録しなければなりません。報告のとき支障が生じないていどに漏れなく、かつ簡潔に書きとめましょう。
3-1-2.「観察」の記録(実験中)
『シンプルに 具体的に そして忠実に』

観察は緻密におこないましょう。
 ものごとを観察するときは、一側面だけでなく様々な視点から多角的に情報を集めるようにしましょう。記録から実際の様子が思い起こされるぐらいであれば理想的です。情報が豊富になれば、考察の題材が増えることにもつながります。
 目で見た内容を、言葉でうまく表現するのはむずかしいこともあります。スケッチをする、写真に撮ってプリントアウトするなど、より実際の視覚情報に近いかたちで残すような工夫も実践されています。

記録は簡潔でかまいません。
 実験中は作業でいそがしいですから、実験ノートの記録はキーワード程度の簡単な記述でもかまいません。ただし情報不足にならないよう気をつけましょう。

具体的に書くよう心がけましょう。
 感覚的な表現や曖昧さを含む「はっきりしない」記述は、あとで見直したときに困ることになります。幅がある表現は、その程度を絞り込むとよいでしょう。例えば、ひとくちに「赤」といっても「紫に近い赤からピンクに近い赤」まで幅があり、あるいは「濃淡」や「明暗」も様々です。色は光の加減によっても左右されますので、「フェラーリの赤」のような客観的に比較できる対象があるとよいかもしれません。
 量的な(数値化できる)内容は、実験結果に影響することが多いので、できるかぎり明確に記入することが肝要です。実験ノートの記述を見た第三者が、同じ条件で再現できるぐらいに詳細かつ具体的であることが望ましいです。

観察事項や測定値は忠実に記録しましょう。
 測定した数値などが、マニュアルで与えられた値と完全に一致することはきわめて稀です。器具や装置に表示された値を忠実に記録しておきましょう。

観察記録は、最終的な結果以外も大切です。
 最後の状態だけではなく、最初(試料に手を加える前)や途中経過(各段階ごとの変化)が重要な意味をもつこともあります。作業をはじめてしまってからでは記録できないものがあることに注意しましょう。
 仮に実験がうまくいかなかったとしても、途中までの状態から原因をつきとめたり、解決法を見いだしたりすることができるかもしれません。また、途中経過を把握することで、実験の原理を理解する一助にもなります。
 何らかの操作をおこなっても変化がない場合には「変化がなかった」旨を記録しましょう。たまたま「肉眼」もしくは実施した観測方法では変化が検出されなかっただけで、別の方法で観察すれば検出できるかもしれないからです。

実験がうまくいかなかったときの記録はどうすればよいでしょうか。
 こぼした、あるいは間違えたなど、人為的なミスがあれば実験はうまくいきません。また、操作を正しくおこなったはずなのに、結果が予想と異なったり、思わしくなかったりすると、実験がうまくいっていないように思えることもあります。いずれの場合も時間に余裕があればもう一度おこなってみて、結果が再現されるかどうかを確認しましょう。それによって正しい(と思える)結果が得られれば問題ありません。
 やり直す時間がない、あるいは何度か試みても判断がつかない場合もあります。このときも操作とともにすべての結果を記録・保管しておきましょう。勝手な判断で安易にデータを破棄してはいけません。実験で「思い通りにならない」ことは珍しくないからです。「教科書通りにならない」のも、実験条件が全く同じではないことに起因します。
 期待に沿った結果を得ることは理想ですが、絶対ではありません。むしろ事実はどうだったのか、のほうが重要です。操作を間違えただけだとしても「実際におこなった操作で得られた実験結果」であることは厳然たる事実です。それを無視して都合のよい結果だけを報告するのでは、ねつ造と変わりありません。失敗(に見える結果)もすべて忠実に報告し、その是非は考察で議論してみましょう。
3-1-3. 実験ノート記入例とNG集
【マニュアル】で指示された操作で実験をおこない、観察記録や結果を【実験ノート】に記入するときの、よくない例と改善例をご紹介します。

  • 実験条件の補完
  •  【マニュアル】
       溶解するまで加熱する。

     【実験ノート】(よくない例)
       溶解するまで加熱
     【実験ノート】(改善例)
       加熱溶解、50℃、6分間

     解説)条件を補うためには観察も必要です。

  • 記録の充足と実験全体像の把握
  •  【マニュアル】
     各種試料について、用意された器具から適当なものを選んで固有値を測定し、精度について議論する。ただし必ず複数の器具を用いて測定を行うこと。

     【実験ノート】(記入例)
       固有値の測定
       ・試料A(円筒)
         外周 → 巻き尺:12.3 cm、紐と定規:12.5 cm
         高さ → 矩尺 :6.56 cm、定規  :6.56 cm
         厚み → ノギス:7.05 mm、マイクロメーター:7.047 mm
       ・試料B(細い円柱)
         直径 → 定規:3.41 cm、ノギス:3.410 cm
         高さ → 矩尺:28.5 cm、定規 :28.4 cm

     解説)マニュアルに記載がない試料外観や測定器具名などを記録しています。

  • 測定した数値、天秤表示量
  •  【マニュアル】
       試薬Cを約 10 g 秤量する
     【実際の操作】
       電子天秤の表示量が 9.89 g だった

     【実験ノート】(よくない例)
       試薬C 約 10 g
     【実験ノート】(改善例)
       試薬C 9.89 g

     解説)マニュアルの丸写しではなく、実際の操作や結果を忠実に記録しましょう。

  • 緻密な観察と、豊富な情報
  •  【実験ノート】(不十分な例)
       黄色の沈殿
     【実験ノート】(観察しうる記録の例)
       明黄色沈殿、微細な針状、溶液の1/3量程度、一部は器壁に付着、上澄みは淡黄色

     解説)沈殿を含む溶液は多くの情報をもっています。

  • 記録の具体化
  •  【よくない例】  【改善例】      【より詳しい書き方】
       過剰に      35 mL 以上      35.5 mL
       多量       50 cc 容器の約4割   21 cc
       ごく少量     スパチュラ1杯    1.7 mg
       しばらくの間   10分程度       11分間
       ゆっくり     毎分 6 mm で
       温水浴      40℃の温水浴
       希塩酸      0.5 mol/L 塩酸

     解説)報告の必要性にかかわらず、明確に記録することが大切です。

3-2 レポートにおける「操作や結果」の書式

『情報を 正確に 伝える』

 レポートは「報告書」です。実験レポートでは、実際におこなった操作、観察した実験事実、計算などのデータ処理を記述します。実験にかぎらず仕事や作業の報告であっても、評価につながるという点では同じです。おこなっていない内容を報告すれば「ねつ造」、都合よく結果を書きかえて報告すれば「改ざん」とみなされ、いずれも不正行為としてきびしく処分されるおそれがあります。他人の成果を自分のものとして報告することも同様です。

3-2-1.「操作」の記述(レポート)
『無駄を省いて要約し 過去形の文章で』

過去形で記述しましょう。
 実験マニュアルは手順の「指示」が現在形で記載されています。これに対して、レポートは実際におこなった内容を報告するものです。操作を「おこなった」のは過去のことですから、過去形で記述します。現在形で操作や結果を書いてしまうと、これからおこなう予定のようになってしまうことがわかるでしょう。

実験マニュアルの丸写しではなく、要約してください。
 おこなうべき手順が詳細に記載されているのですから、実験マニュアルを丸写しすることがもっとも無難だと思うのは、間違いです。たとえば「…する」という記載を「…した」に置き換えただけでは、報告書として意味がありません。
 手順の内容を細かく描写するため、マニュアルは記載が冗長になっていることがあります。それをこと細かにレポートで報告する必要はなく、読者が実験を再現できるていどに要約するほうが望ましいです。したがって、内容をよく理解したうえで操作の意義を自分なりに考え、それが読者に正しく伝わるよう文言を盛り込み、適切な接続詞を補いながら文章に組み立てる必要があります。この作業は自分の言葉で書くための訓練にもなります。
 持ち帰って家で作成すればよいレポートの場合、実験する前に操作を書いておき、実験後に数値などを埋めることで修正する、という人がいます。予習として考えれば無意味な作業ではありませんし、時間を効率的に使う姿勢は褒められるべきかもしれません。それでも、実験をおこなってみて、はじめて身につくことは多いものです。未経験の内容を細部にわたって理解することは難しいですから、要約するどころか、丸写しする以外にやりようがないでしょう。不用意に要約したせいで肝心な点を見逃したり、埋め忘れの箇所が残ったり、といった欠陥は目立ちます。ものごとを要領よく進めようとするときには、粗漏があるとかえって印象が悪くなるだけですので、じゅうぶんに注意しましょう。

箇条書きや体言止めは、文章ではありません。
 報告書は、一般に文章で書かなければなりません。実験マニュアルは、雑多な内容を簡素に表記するため、または印刷の都合によって、やむをえず箇条書きや体言止めで記載することもあります。体言止めは日本語特有の表現技法で、文章とは見なされません。また、箇条書きはその各条が文章であっても、まとめて表の一部であるとみなされる場合があります。構成上、どうしても箇条書きを用いたいときは、その旨を断り書きしておきましょう。

マニュアル記載の「注意すべきこと」などはレポートに不要です。
 実験マニュアルには器具や試料を取りあつかうときの「注意点」や、実験を効率よく進めるための「アドバイス」なども記載されていることがあります。これは教育効果を高める目的で盛り込まれていますので、レポートに書く必要はありません。誰にとって必要な注意あるいは助言なのかを考えてみればおのずとわかるでしょう。機械的にマニュアルを丸写しするのでは意味がないということは、すでに述べた通りです。
 一方、実験を経験することで操作上のポイントを発見できることもあります。実験の効率が向上する、あるいは再現性に影響するといった注意点など、ぜひ伝えたい情報がある場合にはその理由を添えて考察に書くのがよいでしょう(4-1.  考察に書くべき内容の項を参照)。

マニュアルと違う操作で実験をおこなったときは、報告の義務があります。
 実験ノートの項目でも触れましたが、教員の指示あるいは事情によって実験マニュアルとは異なる実験操作をおこなう場合もあります。このときは、おこなったままを記述しましょう。マニュアル通りであったと報告すれば、ねつ造と同じになってしまいます。おこなっていない操作を書く必要はありませんので、マニュアルの記載にとらわれる必要はありません。

記述を省略してもよい場合でも「省略」した旨を明記しましょう。
 学生実験のレポートでは、操作の記述を省略することが許可される場合もあります。これは「マニュアルがある」ために「学生の便宜を図った」結果、というきわめて特殊な事情によるものです。本来はあるべきものと見なされることが多いですから、無断で省略すると「不備」あるいは「未完成」のレポートとして扱われるおそれもあります。「書かなくてよい」という指示があったとしても、礼儀として「省略」した旨を断り書きしておきましょう。
 ただし、報告書の形式は分野(あるいは提出先)によって異なるのがふつうです。最低でも1度は決められた書式にしたがって作成し、教員や指導者に添削してもらうことで、基本的な約束事を身につけることができれば理想的です。そのほか、実験内容の理解が不十分であると感じたときには、操作を思い起こしながら書くことで復習にあてるとよいでしょう。
 なお、マニュアルと異なる手順でおこなった実験は省略できません。その場合は、全体的な実験操作の記述を「省略」として、異なる部分のみ追記すればよいでしょう。

当日レポートでは操作を書く必要があるのでしょうか。
 限られた授業時間内にレポートも作成するため、できるだけ考察に時間をわりあてることが望ましいという配慮から、当日レポートに操作の記述欄が設けられていないこともあります。暗黙の了解として操作の記述は省略し、断り書きも不要ですが、本来のレポートは穴埋め作業ではありませんので、上述と同様、特殊な事情であると考えてください。
 当日レポートでも、操作の記述を省略できない場合があります。プレゼンテーション能力の育成を目的として、個々の独創性が求められる実験では、操作の書き方もよく検討する必要があります。おこなった操作の意義をわかりやすく正確に伝えるためにはどのように記述すればよいか、という点に留意しながら取り組んでみましょう。
3-2-2.「結果」の記述(レポート)
『事実のみを 正しく 効果的に』

実験操作には実験結果が伴うものです。
 操作と違って、レポートに結果を報告しないわけにはいきません。マニュアルの記載通りかどうかとは関係なく、おこなった操作に対する観察記録と結果を報告する必要があります。
 基本的には実験ノートの観察記録と同様、感覚的な表現や曖昧さを排除しながら具体的かつ明確に記述します。このとき、ノートの内容そのままを転写するのではなく、適切にまとめたうえで整理して記述するようにしましょう。もちろん、都合の悪いデータを切り捨ててよいという意味ではありません。測定値などは原則としてすべて忠実に報告しましょう。

操作の内容も簡潔に書き添えておくとよいでしょう。
 「操作」に内容を詳述してあれば、簡単な見出し語でかまいません。どの実験に対する結果なのかが明瞭になるよう書いておくとよいでしょう。「操作」に通し番号をつけて記述すれば「結果」は番号だけでじゅうぶんだと思うかもしれませんが、両方が同ページに収まることは稀ですから、読者はそのつどレポートを行きつ戻りつして読まなければなりません。作成した本人ほどには、レポート内で何がどこに書かれているのか読者が詳しく把握しているわけではないからです。
 レポートを書くときには実験についての情報を何も持ち合わせていない「第三者」に伝えることを意識することが大切です。第三者は当然マニュアルを持っていません。操作から結果にいたるまで、レポートの作成者(実験者)と読者(おもに教員)の両者が共有しているという「暗黙の了解」から脱却することが必要なのです。
 なお、ここでは操作と結果を別々に記述することを想定していますが、まとめて記述してもよい場合がありますので、書式をよく確認しましょう。

視覚に訴えることも効果的です。
 相関のあるデータなどは、説得力のある表やグラフを作成することで、より効果的に情報を伝えることができます(グラフについては2-3.  グラフの項も参照)。数値を羅列しただけではわかりにくい内容が、図で一目瞭然になることもあります。ただし相関の見られないデータをむりやり関連づけたり、意図的な印象操作をねらうデータ加工をしたりしてはいけません。
 作成した表や図には、何について示したものなのかという題目を必ず書きましょう。題目の位置は「表の上側」および「グラフや図の下側」が一般的です。

出力データは解析して結果に書き起こしましょう。
 分析装置などから出力されたデータ(生データ)は、提出するだけでは意味がありません。数値が明示されていないグラフなどは、自分で値を読みとって結果に書き起こします。これは「グラフをどのくらい読むことができるか」を評価の対象とすることもあるからです。また、図やグラフの多くは二次元ですから、グラフ上のある1点はX軸Y軸両方の値をもつことにも注意しましょう。横軸だけ数値が印字される場合などに見落しがちです。なお、生データには一切の加工をおこなわないのが原則ですので、直接記入することは控えましょう。

添付書類はレポート末尾に綴じ込みます。
 チャート(記録紙)などをレポートに添付するよう指示されることがあります。添付書類は報告書本文と明確に区別するため、レポート末尾にまとめましょう。本来は出力されたままのものを綴じ込むべきですが、レポート用紙と同じ大きさに揃えると全体の体裁がよくなります(採点者が整頓する都合上も喜ばれます)ので、大きい場合には縮小コピー、小さい場合にはレポート用紙に貼るか拡大コピーしましょう。また、複写の際にはグラフの線などがかすれて見えなくなっていないかどうか、必ず確認しましょう。

実験がうまくいかなかったときの結果も、報告してください。
 状況やその後の対応によって異なりますが、実験ノートの項目で解説したように、記録した結果にもとづいて報告をおこないます。

1)操作の途中で誤りに気がつき、規定の方法でやり直した場合
 途中でやり直したため、それまでおこなっていた「違う操作」では結果を得ていないことになります。部分的な観察記録はあるかもしれませんが、報告はしなくてもかまいません。

2)一連の操作を終えて得た結果から異常を発見し、実験をやり直した場合
 規定の操作で再度こころみて問題なく結果が得られていれば、やり直す前については報告を割愛してもかまいません。再試行はできれば複数回おこなってみて、結果の再現性を確認することが望ましいです。
 ただし、やり直す前にも「実験結果」が事実として存在しますので、それも報告したうえで考察を加えるほうがレポートとしての価値が高まります。実験中に結果の妥当性がわからない場合でも、複数回の再試行で得た結果をすべて報告しましょう。疑わしい結果や思わしくない結果については同様に考察で議論しましょう。

3)誤りなどに気がついたものの、実験をやり直していない場合
 実際におこなった操作とその結果を忠実に報告したうえで、マニュアルと異なる旨を理由とともに添え書きしておきましょう。「手法や条件をかえておこなった実験」という捉えかたもできますので、結果の違いや関連性を議論すれば考察の幅を広げるチャンスかもしれません。

4)誤りに気がついたのが実験終了後で、やり直しもせず期待通りの結果もない場合
 「結果が出なかった」ということも結果のうちに含まれますので、実際におこなった操作と結果が出なかった旨を報告します。ただし、これは時間が限られた学生実験でのやむを得ない措置にすぎません。本来は結果が出そろうまで何度も繰り返し試みる必要があることを心得ておきましょう。
3-2-3.「操作」と「結果」の記述例とNG集(レポート)

第4章 何を考察すべきか

4-1. 考察に書くべき内容

 ・結果の妥当性
 目的に対して、実験結果はそれに答えているか?測定値は理論値(あるいは文献値)と矛盾していないか?
・「なぜ?」
 実験中に気付いた現象をあげて、その理由を考える。
・実験上の大事なこと
 その実験で注意すべきことは何か。実験の再現性や実験上大事なことは何か(実験を行った経験にもとづいて述べる)。
・独自の発想
 科学者としての視点から、独自に考えたこと。

4-2. 考察の体裁

・とにかく書くこと
 考察のないレポートは、評価ゼロ。考察を書いてあっても、内容が軽くて分量も少ないと、「減点してください」といっているようなもの。 
・項目は多く
 一つの項目だけを長く書くよりも、視点の違うできるだけ多数の項目をあげる方がよい。 
・並べる順番も大事
 実験結果に直結することをまず述べる。実験しなくても書けるようなことは、後回し。

4-3. 考察NG集(やってはいけないパターン)

・実験結果黙殺型
 実験によって得られた数値が異常(理論値とかけ離れている)にもかかわらず、それについて一切触れていない。
・不注意型
 テキストに書かれている基礎原理を理解せず、間違ったことを述べている。
・日記メモ型
 考察が、どうでもよい感想から始まっている。  (例) 「今日の実験はよくできたと思う。」
・感想専念型
 単純な感想だけで終わっている。実験内容に立ち入って、その意味を考えようとしていない。  (例)「色がきれいだった。」

 

4-4. 考察NG集(改善の余地があるパターン)

・失敗無視型
 実験の失敗は、ときとして重要な情報を含んでいるのに、一切触れていない。
・結果羅列型
 事実や結果を並べるだけで、それに付随して自分で考えたことを述べていない。
・コピー&ペースト型
 調べた内容(あるいはテキストの解説)をそのまま写しているだけ。
・考察不足型
 問題点を把握しているが、それがどうしてか自分なりの考えを記述していない。
 (例)「何が悪かったのか分かりません。」
・テーマから完全に飛んでいる型
 実験結果を吟味せず、その実験テーマに直接関係ないことで、自分が関心をもっていることを述べる。

 

4-5. 課題レポートでの考察

・テーマに関して
 レポートのテーマを自分で設定した場合、何に注目したのか。そして調べた結果、それがわかったのか。自分にとって予想外だったことは、なかったか。残った疑問はないか。
 ・参考資料に関して レポートを作成するにあたり、なんらかの資料(図書あるいはインターネットのサイト)を参考にしたはずである。そのような情報収集の過程で、「これはなぜだろう?」「どういう意味があるのか?」「複数の資料の間で矛盾があり、どちらが正しいのだろうか?」というような疑問は生じなかったか。

 

4-6. 課題レポートの考察NG集

・他人の意見をコピー
 サイトなどに書かれている文章を自分の考察や意見として使うのはルール違反。(不正行為)
・ありきたりな考察
 何も調べなくても、誰でも思いつくようなことを並べるだけでは、努力不足が露呈する。
・理解不足
 調べた内容をよく理解せずに、議論している。

 

4-7. 良い考察を書く力をつけるには

・基礎力
 その分野の基礎を身につける。
・情報力
 考察するネタ(参考となるデータや情報)を参考図書などからさがす。
・鋭い眼力
  参考文献などに書かれている「良い考察」の例を読んで、学ぶ。
・好奇心
 「なぜだろう」と思う気持ちと、それを理解しようとする努力が必要。

 

第5章 文章表現のまずい例とその改善策

5-1. 表現形式

(例1)電話口調
   「こんなにすぐにナイロンってつくれるんだと思った。今回作ったナイロンは、紙みたいで、すぐにちぎれたけど、衣服とかに使われるのは何であんなに丈夫なのか謎です。染色もあっという間にできたのでびっくりしました。」

        (修正後)
   比較的簡単にナイロンの糸が作れることがわかった。今回得られたナイロンは、紙のように簡単にちぎれたが、衣服用のナイロンは丈夫であり、どこが違うのだろうか。染色も意外と短時間でできた。

 

5-2. 情報量

(例2)言葉足らず
  「匂いがほとんど同じと感じられたので、ヨードホルムである。」
  (修正後)
   純粋な試薬と匂いがほとんど同じであったことから、ヨードホルムの生成が確認できた。

(例3)表現があいまい
  「加熱の仕方が悪かった。」
   (修正後)
   加熱が足りなかった。

 

 

第6章 論理的思考

論述,論理的思考に関する資料  pdf (41KB)
論理的思考に関する発表資料

6-1 科学的論述 WGの活動の意義,特色

  • 科学的論述の能力が一般的に持つ意義は重要であるが,標準的なのでここでは省略
  • 我々の環境の特徴
    • 文系学生,医学部学生が主であり,自然科学者,工学系エンジニアの育成が主目的ではない.
    • 実際に教育現場での経験に基づいて,科学的論述の実践について現実的な解決策を求めている.
      • 現実には授業時間の制約,他科目も視野に入れて学生に課せる負担を考慮する必要があり理想的な状況を仮定できない.
      • 制約の中で,何を重視するか,バランスの問題を考慮する必要がある.実験内容の重さと論述のバランス,完成したレポートを求めるのか実験ノート程度良いのか,質疑応答をするか,レポートの中での項目,毎回レポート提出求めるのか数回に一回か,等々)
    • [多様性] -- 科目の多様性,講師の多様性,授業の多様性(同じ 講師でも)
  • 科学的論述に関する実践方法に関する実用的かつ現実的な考察

6-2 論理的思考が必要とされる状況

  • 実験とそのレポートに必要とされる要素
    • 論理的に結果を導く
    • 結論を導く
    • 考察
  • 課題レポート
    • 上の実験レポートの要素と基本的に同じ!
  • 口頭での説明
    • 質疑応答,発表,等なのでも同じ要素が必要.

6-3 論理的思考の現実への適用(主として実験)

  • 臨機応変な考えの必要性.何が起きるかは全ては予知できない(論理的に考える必要があり, 単にルールに従うわけではない).
  • 事前に全てわかるわけではないし,失敗しても最終的に目的達成すれば良い.
  • 実験の限界の理解の必要性.それによりを自然科学の過信にも不信にもならない. それにより「科学的真実」の根拠の持つ意味を理解する.
    • 実験結果より導ける事と導けないことがある.
    • 誤差(不確かさ)の理解.
      • よくある質問「この結果は良いのか?」(実際には不確かさを考える必要がある.)
      • ありがちな考察.「真の値に近かったから良かった」,「誤差が大きくなってしまった」.(多くの場合,見かけから判断していて根拠を理解する必要ある).
  • 基本的に同じ考え方は課題レポートにも当てはまる.

6-4 結果,結論が論理的に導けていない実験のレポートの例

  • 素電荷の測定: 概念と実験の説明があるのに,やみくもに全体を直線近似
    実験テキスト指示「(グラフを描き)…素電荷eの値を推測する」.
  • 光速の直接測定:グラフを書いてもどうやって光速を求めるか わからない.
  • ブラウン運動
    • 拡散係数を求める.実験テキスト:「最初の 位置から各時間での位置までの距離を… 測り記録する」
      かなり多くの割合で次の時間の位置までの距離を測定. これでは拡散していくのを測定できない.
    • アボガドロ定数: NA=5x10-20 と書いても気づかない(意味を考えていない).
  • 音速の測定: 波長を求める - テキスト「距 離x1,x2を読み取り,その間にある腹の数nをかぞえる.」
    端の数を数える学生多数.波長と距離の関係を考えていない.
  • 考察以前の実験を行う段階や結果を導く段階ですでに多くの問題が生じている(実験→結果→考察).

6-5 論理的な思考法を導くためには

  • 自分で臨機応変に判断する必要がある.
    • 実験の論理の理解の必要:何をしたのか?何がわかったのか?
    • 実験,そして実施状況による差があり,教科書からだけからではわからない.
    • 誤差があるので,精度,「答えが正しい」かどうかは考えないとわからない.
    • 個々の実験が異なり臨機応変な対応が必要なのは楽しい側面でもある.
  • テキストの作り方に注意が必要. 指示し過ぎも指示不足も良くない,何が適切かは 実験状況[学生の気質,人数,etc]にも依存する.
  • 科学的論述におけるポイント
    • 結論と理由を混同しがち(質疑応答,レポート).論理を理解できていない.
    • 実験結果,過程は予想通りとは限らない.予想に実験結果を合わせようとして失敗するケースも珍しくない.
    • 実験には限らず,オリジナルな事をすれば必ず予想外の事が起きる.
    • 実験は論理的思考力を育成する絶好の場!

6-6 個々の問題の原因と対策

  • 何をして何を求めたのか理解できていない
    • 数字を見ると頭が動かなくなる(そうである,ようである).
    • 手を動かしながら頭を使うのは難しい.
    • 教科書で1行の内容も実験では簡単ではない.
    • 考えようとしていない.
  • 理解しようとする気持ちが必要
    • 該当科目の学習背景がそれ程無くても理解できるという感覚.
    • 実験の指示をし過ぎない(テキスト and/or 実験前,中の説明)で自分で考えることを促す. 
  • 理解できるという実感が必要(特に物理?).
    • 質疑応答の重要性: 何をしたのか確認,考えればわかるという実感.
    • 現場で質問に答える,また方向性が間違っている場合にヒントを出す.
    • わからなくても訊けるという安心感が必要.
  • 理解できたという実感,結果が納得できる事が重要.
    • 質疑応答で道筋と結論を確認
    • 実験と文献値のずれの理解.
      •  「あっているのか?」「ずれ過ぎ?」「近いから良い?」(自然な疑問)
      • 実験で自分が「正しい」結果を出せることを実感
      • 必要あればやり直し(時間マネジメントの必要性).
  • 実験は学生にとって楽しく,教員と質疑応答を通じて問題を解決 できるので,理解できるという実感が得やすい環境

6-7 論理的思考 - 何を目指すのか(特に非専門学生を対象とした場合)

  • 自然科学だけにおける能力を伸ばすことが主目的ではない
  • 臨機応変,自分なりの工夫をする力を身に付ける.
  • その場でできる事を自分で工夫をして行う(概算,目分量等を含む).
  • 「科学的真実」の実感に基づく理解
    • まずは大雑把に理解する.
    • 調べればわかるという実感を持つ.
    • 初めから諦めないで理解しようとする態度.
    • 「科学的真実」の持つ限界の理解.

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第7章 科目によるレポート作成上の注意

7-1 心理学

7-1-1 心理学の実験レポートとは?
 心理学実験、あるいは心理学の実験レポートと聞いても想像がつかないかもしれません。しかしながら、ここで紹介する「実験心理学」は、長らく自然科学的な方法論を目指してきた学問分野であり、実験実施上の手続きやレポートの書き方については他の自然科学分野と多くを共有しています。ここでは、心理学に特有と思われる留意点を中心にレポートの書き方を解説します。
 
7-1-2 心理学に特徴的なこと
 他の自然科学分野との大きな違いは「方法」の記述にあります。心理学では実験を実施するのも実験の対象となるのも人間である場合が多いため、実験対象者(実験参加者と呼ぶ)のプロフィールや行動特性に関する記述が必須です。基本的には次の4項目について詳述します。実験の再現性を念頭に置き、実験結果に影響しそうな事柄に留意しながら必要な情報を取捨選択しましょう。

(1)実験参加者(検査の場合は被検査者)
   年齢、性別、人数など、実験参加者のプロフィールをまとめます。
(2)装置
   実験に用いた機材と、その用途をまとめます。
(3)刺激(材料・用具)
   実験参加者に提示した図形や検査項目などについてまとめます。
(4)手続き
   実験の追試を念頭に、具体的な実験手続きをまとめます。

装置や刺激の記述については他分野と大きな相違はないため、第3章を参照してください。ここでは、実験参加者と手続きについて特に留意すべき点を紹介します。

■実験参加者のプロフィール
 実験参加者に関する情報のうち、実験結果に影響しそうな情報(変数)を記述します。また、視覚を用いる実験では視力に関する情報が必要であるというように、実験参加者の特性が実験に耐えうる水準であることを保証することも重要です。以下に、論文やレポートに記載されることの多い情報を示します。実験の内容に応じて必要な情報を記載してください。
  ・年齢、性別、人数
  ・視覚機能(視力、色覚)
  ・聴覚機能、触覚機能、運動機能
  ・利き手、利き目

■個人情報の取り扱い
 上記のように、実験参加者のプロフィールを記述する必要がありますが、参加者個人の情報、すなわち個人情報を記載してはいけません。個人情報とは、簡単に言えば個人を特定することのできる情報であり、氏名はもちろん、学籍番号や氏名のイニシャルも含みます。
 ただし、実験の内容や実験結果によっては、個別のデータについて言及する必要のあるケースも出てきます。その場合には、ID番号をふるなど、どれが誰のデータに相当するか判別できないような工夫を施してください。また、どのデータがどの参加者のものかを控えておきたい場合は、別に対応表を作成して厳重に管理しましょう。

■インフォームドコンセント
 近年、研究倫理への配慮から、事前にインフォームドコンセントを取得することが求められるようになりました。インフォームドコンセントとは、研究目的や、実験で参加者が行うこと、また参加に伴うリスク等を説明した上で、参加者から参加の同意を得ることです。授業内で厳密なインフォームドコンセントの手続きを踏むことは難しいので、少なくともそのような配慮が必要であることを理解した上で、実験参加者からデータを使用する許可を得て、その旨をレポートに記述しましょう。

■実験手続きの記述
 「手続き」の項目では、具体的な手順のほか、実験条件や実験参加者への教示文についても触れます。

1)実験条件について
 実験で操作した条件(独立変数)について記述するだけでなく、照明環境や刺激の提示順序、個別実験・集団実験の別など、実験参加者の行動に影響すると考えられる条件についても記述します。以下のような条件を記述するのが一般的です。
  ・輝度、照度(照明条件)
  ・観察距離
  ・刺激の提示順序、配置の仕方
  ・個別実験、集団実験の別
2)教示文について
 実験参加者の行動を統制するためには、実験者からの教示の与え方が何より重要です。実験前に教示文を作成しておき、実験参加者に対して一貫した態度で読み上げ、レポートにも正確に記述しましょう。

7-2 数学

直観・計算・証明

はじめに

 数学では、はじめに感覚的に得られる直観があり、それを数式を用いて定式化することで、概念が精密化され厳密な論証が可能になる、と考えられる。たとえば、微分係数という概念は、「接線の傾き」として直観的に把握できるが、それはイプシロン・デルタ論法を使った極限により数式化され、ロールの定理のような基本的な定理が証明できることになる。
以下では「数式の操作」を「計算」と呼ぶことにして、以上の三段階を直観・計算・証明と呼ぶことにする。論理的な文章を書くということに直結するのは、もちろん最後の段階である証明である。しかし、良い証明を書く、もしくは良い数学的論述をするためには。狭義の証明スキルだけではなく、直観や計算を含んだ総合的な能力が大切である。一方で、直観的説明や計算だけでは、証明にならないことも強調しておきたい。このあたりの事情を、項目に分けて、順次みていくことにしよう。

7-2-1 直観
 数学は論理的に証明を連ねていくことによって進む学問であるが、その前提となっている基本概念と、そうした概念がみたす基本的な性質は、証明されるべき対象ではない。まずは、図形や数についての、感覚的・直観的な把握から出発するわけである。また、証明の結果として得られた定理についても、もとの直観に戻ると、意味が明確になる場合が多い。
 もちろん直観的な理解は、厳密化され体系化される中で、再吟味され修正されることもある。一方で、直観的な理解に導かれて、計算方法や証明が見いだされることもある。さらに、計算や証明を通じて、直観がより豊かになるということもあるように思える。数学的な経験を重ねることで得られる直観は、当初の素朴な直観と対比する意味で、「熟した直観」とでも呼べるかもしれない。直観というのは、はじめから与えられているだけではなく、養えるものなのである。
 たとえばグラフを利用するというのは、直観を養うための良い手段である。現在ではMathematica のようなソフトウェアによって、計算結果を様々なグラフの形で容易に視覚化することができる。また、少し込み入った定義や計算では、構造を図式化して整理して考えることも有効である。
 ついでに、直観というと図形的な直観のみを連想しがちであるが、数に関する直観というのも確かに存在する。これは少なくとも部分的には、計算に習熟することで得られるのだろう。スポーツでの筋トレと同じく、地道な計算練習の積み重ねが大切である。

7-2-2 計算
 さて、数学は直観から出発するということを述べたが、それだけでは数学にはならない。直観的な理解を記号を使って定式化して、計算できるようにしなければいけない。直観的な理解だけではわからないことが、計算することではじめてわかるようになるのである。
 ちなみに、「計算」という言葉にはテクニカルな意味があるが、ここでは、特に代入を主要な手段とする等式もしくは不等式の変形操作という意味で使っている。学生のみなさんが、「計算」によってイメージする通りのものである。
 以上の意味での計算は、基本的には、公式として知られている計算パターンを、当該の計算にうまくあてはめて変形していくという作業となる。いわゆる「パターン・マッチング」と呼ばれる作業である。
 数学学習の初歩の段階でつまづいている学生は、このパターン・マッチングの作業がうまく行えないようである。つまり、公式を見ても、それをどう適用してよいのかがわからない。これは、基本的な概念が理解できていないということもあるだろうが、そもそも一般的なパターンを特殊な事例に当てはめるというメカニズムがわかっていないためではないだろうか。計算は具体的な数の加減乗除だけではなく、パターンを抽出・比較・適用するという抽象化と具体化の往復作業を含むのである。
 さて、こうしたパターン・マッチングを介した等式の変形には「方向がない」。つまり、a から出発して、〜 = 〜 という変形操作によってz に至ったときには、反対にz から出発してもa に至ることができる。この「方向がない」という性質は、計算については成り立つが、次の段階である証明になると一般的には成り立たない。つまり、証明には「方向がある」。

7-2-3 証明
 数学は、直観的理解から出発して、それを記号を使って定式化し計算することで、直接的な感覚を超えた範囲にまで適用できるようになると述べたが、それだけではまだ本当の数学にはならない。学問として数学の本質は、計算を使って、なにかを証明することにある。
 計算は主として数を対象とするが、証明の構成要素は文である。文は命題という言い方をすることもあるし、テクニカルな用語では「論理式」といった方が正確であるが、面倒なので以下では「文」という呼び名で統一する。計算と対比しつつ、証明の特質を少し整理しておこう。
 計算は、なんらかの数a から出発して、それと等しい数を次々と連ねて、数z に至る操作である。ここでは方向はない。証明は、なんらかの文P から出発して、そこから論理的に導かれる文を次々と連ねて、文Qに至る操作である。ここには方向がある。つまり、P からQ が導けても、Q からP が導けるとは限らない。
 また、数a と数z が等しいという等式a = z は一つの文であるが、文は等式だけではない。「〜かつ〜」、「〜または〜」、「〜ならば〜」「〜ではない」などの語句によってつくられる複文も文であるし、「すべてのx について〜」、「あるx について〜」などの語句によってつくられる限量文も文である。
 計算はパターン・マッチングを含んでいると述べたが、実は証明でも基本的なパターンがある。そしてそれは、上述した「P かつQ」とか「すべてのx についてP(x)」といった文の形に応じて定まっている。このパターンをいったん習得してしまうと、ほとんどの場合、証明は自然な流れにそって行えばよいだけになるが、単に抽象化されたパターンを覚え込むだけだと、うまく使えないようにも思える。実際に証明を書く訓練を通じて、体得するのが最もよい。
 証明を書く訓練が大事だというのは、実は厳密にパターンに沿って書かれただけの証明は、正しい証明であっても、必ずしも良い証明とはいえないからである。「良い証明」とは、この場合、「人間が読んで良く理解できる証明」という意味である。実際、コンピュータによって機械的にチェッ
クできるような仕方で、本当に厳密に証明を書くと、それほど複雑でないはずのものが、膨大な量に膨れ上がり、人間にとっては読解困難になる。
 良い証明とは、同じことの繰り返しは「同様に」などの語句によって省略したり、容易に確認可能で直観的に明らかであることは圧縮して述べてしまうなどして、うまくまとめ上げた証明であり。証明の構造や直観的な意味が明確になるように上手に説明された証明である。想定される読み手
が誰であるかによって、書き方も異なってくる。
 この意味で「良い証明」を書くというのは、ひとつの技芸(アート)であり、厳密さとわかりやすさの程よいバランスを、実践を通じて身につけていくしかない。

7-2-4 数学の学習を通じた論述力養成
 良い証明を書くということは一つの技芸である。さらに、数学の教科書や研究論文を見ればわかるように、数学の論述は証明だけで成り立っているわけではない。それをとりまく説明もまた重要な要素である。そして、そこまで含めて考えると、数学での論述は、数学以外の分野での論述とあ
まり変わらない。計算能力や狭義の証明テクニックだけではなく、豊かな直観的理解に裏打ちされた明快な叙述が必要となってくることが、納得してもらえるだろう。いわば、直観を滋養を吸い上げる根、証明を全体を形作る幹、計算を自在に伸びる枝として、樹木を総合的に創っていかなけれ
ばいけない。
 翻って、数学でのこうした論述は、対象が明確であるという意味で、他の分野を含めた一般的な論述の、良い範例であるといってもよいだろう。
 論理的な文章を書く訓練の場として、数学ほど適した学問はない。

7-3 物理学

(文責:青木 健一郎)

7-3-1  物理学実験の特色
  • 理論的な背景は考えないとわからない(それでも難しい場合も多い)

  • 理解を質疑応答,レポート等で確認することが最重要

  • テキストで理解を促す配慮が必要(難しすぎず,簡単すぎず)
    • 指示を与えすぎず,結果が得るために理論の理解を必要にする:「素電荷の値を推測する」,「ドップラー効果より重力加速度を求める」

    • 実験例を含めれば難易度が下がるが,理解しないでも実験ができてしまう
  • 現場での各学生のレベルに合わせた指導が必要

  • 計算量がかなりある.累乗の計算も多いので教員の援助が必要

  • どの実験でも定量的な計算がある.実験が「うまく行った」のかを自分で
    理解するためには誤差の概念も必要.

  • 現状では,物理学実験では学生は授業時間内に実験を行い,実験レポートを完成させて提出する.時間が不足する場合には重点的に力を入れる部分ができる.実験レポートの中での優先順位:
    1. 論理的な結果を導出
    2. 考察
    3. 手順等その他の部分
7-3-2 実験スケジュールの例(前期+後期)
  1. モンテカルロシミュレーション
  2. 重力加速度
  3. 空気の振動と音速
  4. 電子の比電荷
  5. ブラウン運動と原子の実在
  6. 光速の直接測定
  7. 分子の大きさとアボガドロ定数
  8. ガラスと水の屈折率
  9. 干渉と回折
  10. 光量子仮説
  11. 量子力学と原子のスペクトル
  12. 素電荷の測定
  13. 音程とドップラー効果

7-4 化学

7-4-1 実験条件を記録することは重要
■室温
 例えば春に実験をしたときはうまくいったのに、同じ実験を秋にやったらうまくいかない、ということが起こりうる。よくある原因は、室温によって反応速度が随分違うためである。また、ささいなことで実験の結果が左右される場合もある。このようなときに、実験条件を細かくメモしておくと、後で役立つ。

■試料番号
 未知試料を分析する場合、結果をいくら詳しく書いても、試料番号を報告し忘れたら、まったく意味がない。また、隣の人と同じような実験をしている場合、うっかりすると2つの試料番号と結果が入れ違ってしまうことも起こりうる。

7-4-2 用語をきちんと理解しよう
■理論収量
 合成実験において、出発物質がロスなく100%反応して生成物になると仮定したときの収量を「理論収量」という。実際の収量が理論収量より少なくても、それを「誤差」とはいわない。

■分子量と物質量
 「分子量」とは、分子の相対質量のことであり、「物質量」とは物質の個数(あるいはモル数)のことである。「分子量」という文言を、「分子の物質量」という意味で使ってはならない。

■透明と無色
濁っていない状態を「透明」というが、それは色を表してはいない。たとえば、水晶の結晶やコップに入れた水の色は「無色」と表現する。

■比例
「比例」とは、ある変数をn倍にしたとき、それに関連して変動するある値がn倍になることをいう。温度が高いほど反応速度が大きくなることを、反応速度は温度に「比例する」と表現するのは誤り。

7-4-3  元素記号や化学式を正しく書こう
■元素記号
 大文字と小文字は区別し、添え字の位置にも注意する。また、uかaか紛らわしい場合が多い。炎色反応で未知試料を調べて報告する場合、CuかCaかわからないのはNG
正    誤     正    誤
H2O   h2o    O2    O2
CO2   Co2   NaCl   Nacl

■構造式
炭素の原子価4(結合の手が4本)であること、またNやOに結合している水素を省略しないことに注意する。

7-4-4  文字をきちんと書こう
■ 誤字に注意しよう
よくある誤字の例: 
正      誤      正         誤
元素   (原)素   元素記号    (原子)記号
溶液   (容)液    試験管     試験(官)
固体   (個)体   反応が速い   反応が(早)い
還元   (環)元    洗剤       洗(済)
加熱   (過)熱   炎色反応    (災)色反応

■ 一文字違っても大違い
間違いの例:
正        誤        正         誤
アニリン   アニ(ソ)ン   ルミノール   ルミ(エ)ール
プロトン    プ(ル)トン   グルコース   グ(リ)コース

7-4-5  数字もていねいに書こう
■紛らわしい数字は最悪!
 測定データの数値が、何と書いてあるのかはっきりとわからないレポートは、報告書としての価値がない。特に1か 7か、3か5かわからないケースが多い。

■小数点も明確に
 収量の報告で、3.77 gのはずが377 g? (小数点が不明確)

■読み取りデータは再確認しよう
 波長の数値が、656 nmのはずが665 nm?(数値の転記ミス)

7-4-6  3回測定して平均したときのデータの扱い
■生データを報告しよう!
 平均値をもとに、目的の値を計算して求めるとき、個々のデータがどの程度ばらついているのか(実験の精度)も重要な情報である。

■計算の過程も示そう!
 計算は結果だけでなく、計算式も必ず書くようにする。そうすれば、答えがおかしいときに、根本的に考え方が間違っているのか、あるいは単純な計算ミスなのかがわかる。  

■データ処理は要領よく!
 中和滴定の実験で、3回測定し、シュウ酸溶液の滴下量が(1) 3.66, (2) 3.90, (3) 3.76 mlであったとする。これからNaOHの濃度を計算し報告するときに、次のA君とB君のどちらの方式が良いだろうか。また、その理由はなぜだろうか? 

A君: 3回の滴下量からそれぞれNaOHの濃度を計算すると、
    (1) 0.073, (2) 0.078, (3) 0.075 Mである。この平均値は0.075 M。
B君: 3回の滴下量の平均値は3.77 mlである。これからNaOHの濃度を
    計算すると、0.075 M。

7-5 生物学

7-5-1 クラス運営上の決まり事と実験条件をはっきり区別すること
 事前説明で配布される資料に記載されている「手順」には教室に用意されている機材を如何に利用するかという“クラス運営上の決まり事”が書かれている。たとえば、「試薬Aは黄色いラベルのついている2mlのピペットで添加すること」などである。レポートは“実験条件”を記載するものであるから、「黄色いラベルのついた」という記載は必要ない。また、単に「加えた」でなく、何を目論んだか意図をはっきり示すこと。

× 第1の試薬を黄色いラベルのピペットで試験管に加える。
○ 酵素を含む試薬を試料に添加し、呈色を見た。


7-5-2 図表の取り扱い
 生物学のレポートでは、基本的に図表や計算式は本文と別にまとめること。本文の途中に「集計した結果は <実際の図表を掲載> となった。」の様に挿入してはならない。「集計した結果を表1にまとめた。」と文章を結び、別に欄を設けて図表を掲載すること。また、本文中の関連する場所で図表参照のタイミングを指示すること。作成された図表の全てについて、本文中で触れられることが望ましい。

例:標本中には細胞分裂中期の像が見られた(図3)。

 表には必ず表番号と表タイトルをつけること。表タイトルは表の上に配置すること。補足説明が必要な場合は図の下に注をつけること。
 図には図番号と図タイトルをつけること。複数の図を組み合わせて一つの図とする場合はそれぞれの図に枝番号(記号)をつけること。図番号と図タイトルは原則として図の下側に配置し、概要を記した説明書きを添付すること。
 図の一種としてグラフを使用する時は、単位と軸タイトル、凡例を忘れずに記入すること。グラフの一部を省略記号で省くことはなるべく避けること。特にデータが変動する範囲には省略記号を使用してはならない。


7-5-3 写真とスケッチ
 顕微鏡下での観察の場合、最初に見えたものが最良のものであるとは限らない(そうでない場合が多い)。サンプルを十分に見渡して、典型的な例を選んで表現すること。生物は大きさの異なる階層で形成されているので、示すべき階層をもっとも良く表す拡大率を選定して写真やスケッチに取り組むこと。たとえば、細胞の構造を示したいのであれば、細胞1個+αの大きさをスケッチするべきであるし、繰り返し構造を含む器官を表現するためには1繰り返し単位+αの範囲を示す必要がある。

写真を用いるか、スケッチを用いるかは下記のような特性をよく理解して使い分けること。

写真:漫然と撮影するのではなく、伝えたいことが誤解無く伝わるように、対象物の配置やピント合わせの位置を考えること。プリントしたものに無駄な余白があれば、なるべくトリミングして整理することが望ましいが、対象物の形に合わせて切り抜いたり、対象物の一部が欠けるようなトリミングをしたりしないこと。これらの行為は不都合なものを隠蔽しているのではないかという疑いを持たれる恐れがある。顕微鏡写真は被写界深度がとても浅い(ピントの合う奥行き幅が狭い)ので、立体的な構成を完全に表すことができないと言うことに留意すべきである。

スケッチ:生物学で求められるスケッチは「写生」ではない。そこに存在する対象を概念化して、輪郭を細い実線で描ききるのが「生物学のスケッチ」である。顕微鏡観察では、ピントを移動しながらよく観察し、脳内に再構成したものを描くつもりで取り組むこと。よく見えないからと行って、美術デッサンのように複数の線でざっくり描いたり、黒く見えるからと塗りつぶしたりしてはならない。斜線で影をつけるのも漫画の技法なので行ってはならない。どうしても濃淡や密度を表したい場合は、大きさのない点を打つことになるが、見えている濃度になるまで点を打つ必要はない。粒子状の構造物が見えるときは大きさのない点でなく、輪郭線を描く(極小の円になる)こと。描画技量が及ばないためにスケッチに表現しきれないことは、ごく細い引き出し線をつけてコメントを書き込んでも良い。観察された事柄を詳細に書き込むために、なるべく大きくスケッチしなさい。複数のスケッチを描くときには、相対的な大きさをそろえること。

7-5-4 レポート用紙の取り扱い
 生物学実験ではスケッチを描くためにケント紙でできた専用のレポート用紙を、実験1回につき一枚配布している。追加の用紙は配布しないので、スケッチが課されているときは、この専用用紙にスケッチを配置すること(裏面使用可)。文章や表を書く紙面が不足する場合は手持ちの用紙を追加して良い。追加用紙を使用する場合は、必ず配布されたレポート用紙と同じサイズのものとし、左上をホチキス留めして提出すること。紙片をセロテープ等で貼付して用紙外形を変えたり、レポート用紙からはみ出すように写真を貼ったりしてはならない。これは社会人としてビジネス文書を取り扱うときの基本でもある。


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