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酢酸エステル類の合成(果物の香り) (*)

アルコールと無水酢酸との反応により、酢酸エステルが生成すること(エステル化反応)を学ぶ。

実験風景

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実験の紹介

実験の目的とねらい

有機反応は収率100%というわけにはいかない。それは反応時間をいくら長くしても化学平衡となり、生成だけでなく分解反応も起こるからである。したがっ て、いかにして反応の効率を上げるかが問題となる。本実験では果物の香気成分である酢酸エステル類を効率よく合成し、また分液ロートを用いて分離精製する 方法を学ぶ。

実験内容

乾燥したナス型フラスコに無水酢酸と1-プロパノール(または3-メチル-1-ブタノール)を加え、20分間加熱還流する。放冷後、フラスコ内に水を加 え、分液ロートを用いて水層(下層)を捨てる。さらに、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液ならびに飽和食塩水で処理する。得られた粗エステルの重量を測定し、 理論収量と比較する。

実験上の注意

2<実験開始前の準備>
[使用器具および試薬]
・リービッヒ冷却器
・マントルヒーター
・分液ロート
・100 mlナス型フラスコ
・コルク台
・10 mlメートルグラス(メスカップ)
・メスシリンダー
・沸騰石
・飽和食塩水
・飽和炭酸水素ナトリウム水溶液
・無水酢酸
・1-プロパノール
・3-メチル-1-プロパノール
個人器具および机上試薬

[試薬の調製]
・飽和食塩水は、水1 Lに対してNaCl 300 gの割合で入れる。
・飽和炭酸水素ナトリウム水溶液は、水5 Lに対してNaHCO3を500 gの割合で入れる。
・無水酢酸をビーカーにいれたままで一晩放置すると反応性が落ちる。(なるべく空気中で放置しないこと)。
・無水酢酸の試薬びん専用として使用するスポイトのゴムは劣化しやすい。(すぐ空気がもれて使えなくなる)。

<実験開始時の注意>
・エステルのにおいは強いので、沸騰石やこぼしたエステルをふいた紙などはすべて回収する。(ゴミ箱にそのまま捨てると、実験室ににおいが充満する)。
・酢酸イソペンチルはバナナの強いにおいがして、酢酸プロピルは洋ナシ様の弱いにおいである。一度バナナ用に使用した分液ロートはよく洗ってもにおいがな かなか取れない。継続して実験を行う場合には、「バナナ用」と「洋なし用」に分けて分液ロートを使った方がよい(「洋なし」のにおいがバナナのにおいに負 けてしまう)。
・ナス型フラスコは必ず乾いているものを使用する。
・ナスフラスコの底をマントルヒーターに密着させる。
・無水酢酸をこぼしたとき、水でぬらしたペーパータオルでふきとる際ににおいがきつく目にしみる。(換気にも注意する)。
・試薬(エステルなど)の匂いは、直接鼻を近づけて嗅がないように注意する。(匂いが強すぎて頭が痛くなる危険性がある)。

<失敗例>
・合成時にコルク栓がしっかりフラスコの口にはまっておらず、蒸気が噴出した。
・分液ロートの操作を誤り、液を撒き散らしてしまった。(原因:コックがゆるんで液がもれた。フタの抑えが甘く、さかさまにしたときに内圧が上がってフタから吹き出した。)
・収量が理論収量よりもかなり大きくなった。(理由:水が相当入っている)。

実験テーマの履歴など

慶應義塾大学日吉キャンパスの文系学生を対象とする化学実験において、この実験テーマは2003年に開始されました。 この実験内容は、日本化学会主催、夢・化学-21で行なわれた実験をベースにしています(1)。そこでは、合成するエステルとして、①酢酸イソペンチル (バナナ臭)、②酢酸プロピル(洋ナシ)、③酢酸ベンジル(モモ)、④酢酸ゲラニル(バラ)の4種類が挙げられていましたが、④の原料となるゲラニオール は高価なので除外しました。(ちなみに、この4種類のエステルの中で、強くてわかりやすい香りのするものは、①のバナナだけです)。③の酢酸ベン ジル(比重1.05)は予備実験をしてみたところ、抽出の際に水層と分離しにくいことがわかりました。そこで、合成対象を①と②にしぼりました。また、エ ステルの精製・抽出には、分液ロートを活用することにしました。このため、原料のアルコールを2 mlから8 mlに、無水酢酸を8 ml から 22 mlに増やしました。(100 mlナスフラスコを使用するので、容積はその1/3が限度です)。
2011年に加熱条件について再検討を行ったところ、加熱は必要であるが収量は加熱の強さや沸騰の継続時間にはほとんど依存しないことがわかりました。また、NMR測定を行い、目的のエステルが得られていることおよび分離操作が不十分な場合に酢酸塩が2割程度も混入してしまうことを確認し、解説としてまとめました。(2)

参考文献
(1) 日本化学会主催、夢・化学-21実験テキスト「果物の香りをつくろう」(大阪市立大学大学院理学研究科、舘 祥光).
(2) 小畠りか、向井知大、大場茂 「酢酸エステル類の合成の実験条件」、慶應義塾大学日吉紀要、自然科学No.51, pp31-42 (2012年).

実験テキスト

酢酸エステル類の合成  pdf (283KB)